1980年代末から1990年代にかけて、歴史改変もののブームが起きた。ハリイ・タートルダヴが多数の作品を発表し、スチームパンクというジャンルが出現し、グレゴリー・ベンフォードが編集したアンソロジー What Might Have Been シリーズやマイク・レズニック編集のアンソロジー Alternate ... シリーズなどが出版された。他にも、S・M・スターリング、キム・スタンリー・ロビンソン、ハリイ・ハリスン、ハワード・ウォルドロップらが同時期に歴史改変SFを書いている。
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1990年代末ごろからハリイ・タートルダヴが「歴史改変SFのマスター」と呼ばれるようになった[12]。南北戦争でアメリカ連合国が勝利した世界を描いたシリーズと、第二次世界大戦中に異星人が地球を侵略する世界を描いたシリーズがある。他にも A Different Flesh では氷河期にアジアからアメリカ大陸に人間が移住して来なかった世界を描いている。In the Presence of Mine Enemies では、第二次世界大戦にナチス・ドイツが勝利した世界を描き、Ruled Britannia では、スペインの無敵艦隊がエリザベス朝のイギリスに勝ち、ウィリアム・シェイクスピアが征服者であるスペイン人に対してイギリス人を立ち上がらせるような芝居を書く仕事を引き受ける。また、俳優のリチャード・ドレイファスとの共著 The Two Georges では、ジョージ・ワシントンとジョージ3世が協定を結び、アメリカが独立しなかった世界を描いている。また、日本が真珠湾攻撃をしただけでなく、ハワイ諸島を占領した世界を描いた作品もある。2005年には、北アメリカの東海岸部分が独立した大陸となって大西洋にある世界を描いた短編小説を2編書いていおり、同じ設定の長編 Opening Atlantis はシリーズ化される予定である。
おそらく最も頻繁に持ち出される歴史改変SFのテーマは、ナチスが第二次世界大戦に勝利した設定であろう。中にはナチスが全世界を征服した設定の小説もあるし、アメリカだけが対抗している世界を描いた小説もある。ロバート・ハリスの『ファーザーランド』(1992年)は、ナチスがヨーロッパを征服した世界を描いており、その描写は評価が高い。未来からのタイムトラベルやパラレルワールドからの旅行をきっかけとして世界が分岐するという設定を扱った作品もある(ジェイムズ・P・ホーガンの『プロテウス・オペレーション』(1986年)、マイクル・P・キュービー=マクダウエルの『悪夢の並行世界』(1988年)[13]など)。ノーマン・スピンラッドの『鉄の夢』(1972年)は、アドルフ・ヒトラーが1920年代にヨーロッパから北アメリカに逃亡した後に書いたSF小説という体裁をとっている。下院議長を務めたこともあるニュート・ギングリッチは William R. Forstchen と小説 1945 を共同執筆した。これは、アメリカが第二次世界大戦で日本には勝ったがドイツを敗北させられなかった世界を描いている。結果としてアメリカとドイツの間で冷戦が続いている世界である。彼らは続編を書くことを約束したが果たしていない。代わりに南北戦争に関する三部作を書いている。第一部の Gettysburg: A Novel of the Civil War はゲティスバーグの戦いで南軍が勝つ話である。
L. Neil Smith が1981年に書き始めたシリーズ(1作目は The Probability Broach)は、18世紀後半のウィスキー暴動でアメリカ連邦政府が崩壊し、リバタリアニズム的ユートピアが出現した世界を描いている。
タイムトラベルと歴史改変を組み合わせたものでは、あるコミュニティ全体が過去に行って、新たな時間線を生み出すという設定が増えている。過去に行く設定としては、自然現象によるもの、異星人の進んだ技術によるもの、人類の行った実験が失敗した結果などがある。S・M・スターリングの Island in the Sea of Time 三部作は、現代のナンタケット島が住民ごと青銅器時代にタイムスリップする話である。Eric Flint の 1632 シリーズは、ウェストバージニア州小さな町が17世紀のヨーロッパにタイムスリップし、ハプスブルク家に対抗するという話である。John Brimingham の Axis of Time 三部作は、アメリカ海軍のタスクフォースが2021年から1942年に送り込まれ、連合軍を助ける話である。
最近の歴史改変ファンタジー
ファンタジーの多くは、実際の歴史となんらかのつながりを持った世界を設定しているが、そこに魔法が追加されている。魔法があるということは自然法則が異なることを意味し、分岐点がどこにあるかを想像することは難しい。分岐の効果は、人類の歴史だけでなく、生命全体に及ぶと考えられる。歴史は似ているが自然法則が異なる世界を描いた例として、ポール・アンダースンの『魔界の紋章』がある。ほぼ史実通りだが若干変化させている例としてランドル・ギャレットのダーシー卿シリーズ、ラルフ・イーザウの暁の円卓シリーズ、「銀の感覚」がある。
スザンナ・クラークの Jonathan Strange & Mr Norrell は、ノーサンブリアに300年以上も続く魔法王国が存在するイギリスを舞台としている。Patricia Wrede のファイタジーでは、イギリスに王立魔術師協会が存在する。ポール・アンダースンの A Midsummer Tempest では、シェイクスピアが偉大な歴史家として記憶されており、小説自体はオリバー・クロムウェルとチャールズ1世の時代に早めに産業革命が起きた世界を描いている。
オースン・スコット・カードのアルヴィン・メイカーシリーズ(末日聖徒イエス・キリスト教会の創設者ジョセフ・スミス・ジュニアの生涯に似た話)は、19世紀初めのパラレルワールドのアメリカを舞台にしている。
キース・ロバーツの『パヴァーヌ』ではエリザベス1世が暗殺され、スペインがイギリスを征服した世界を描いており、技術革新が滞っているが妖精が実在する世界である。
一般にファンタジーでは、魔法が実際に機能するが、それが歴史を改変するほどの効果を発揮しないような設定をすることが多い。多くはルネサンス期かそれ以前に時代設定し、魔法が弱まっているという設定をしていることもある(それが現代に魔法が存在しない説明になっている)。
魔法が現代にもあるという設定の場合、歴史改変とは明確に異なり、いわゆる秘史として描かれる。例としてはロバート・A・ハインラインの「魔法株式会社」、ポール・アンダースンの『大魔王作戦』(大騒動になるので秘史ではない)などがある。
ファンタジー色が濃くなると歴史改変的要素は薄くなる。ただし、文化的背景を現実のものを参考にしていることが多い。バリー・ヒューガートの『鳥姫伝』は全くのファンタジーだが、その文化は中国的であり、武則天など歴史上の人物も登場する。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズは並行時間警察のファンタジー版を生み出し、クレストマンシーシリーズ(1977年 - 1988年)に登場させている。特に『魔法使いはだれだ』では、われわれの世界というよりもクレストマンシー自身の世界の歴史改変を鮮明に描写している。
テリー・プラチェットのディスクワールド・シリーズでも何度か歴史改変を扱っている。
小説以外での歴史改変もの
ラジオ
1953年、NBCラジオは Stroke of Fate という番組を放送した。これは、歴史上の重大な出来事について、史実とは異なる結果となる可能性をドラマ仕立てで展開し、歴史家がそれを解説するというものだった。例えば、南北戦争の結果が違っていたら、アレクサンドロス大王が長生きしていたら、ジェームズ・ウルフが長生きしていたら、ユリウス・カエサルが暗殺されなかったら、アーロン・バーの決闘が逆の結果だったら、などのエピソードがあった。
映画
歴史改変を扱った映画もいくつかある。ケヴィン・ブラウンローの It Happened Here(1966年)は、ナチスに占領されたイギリスを描いた作品である。HBOのテレビ映画 Fatherland(1994年)は、第二次世界大戦でドイツが勝利し、イギリスまで占領されている1960年代の世界を描いている。韓国映画の『ロスト・メモリーズ』(2002年)は、伊藤博文が安重根に暗殺されなかった世界を描いている。Timequest(2002年)は、タイムトラベラーがジョン・F・ケネディ暗殺を阻止し、歴史を変えてしまう話である。C.S.A.: The Confederate States of America(2004年)は、イギリス制作のドキュメンタリーという形式で、南北戦争に南軍が勝った世界を風刺的に描いている。日本映画では、1979年の『戦国自衛隊』、2007年の『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』がある。
歴史上の重大事件とは無関係に、より個人的なパラレルワールドや歴史改変を描いた映画もある。例えば、フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』、バック・トゥ・ザ・フューチャー・トリロジー、Blind Chance、『スライディング・ドア』、『ラン・ローラ・ラン』、Me Myself I、『バタフライ・エフェクト』、『オーロラの彼方へ』などがある。日本映画では、1983年の『時をかける少女』がある。
テレビ
テレビ番組にも歴史改変のコンセプトを使ったものがある。SFテレビ番組 Sliders は、量子力学的多元宇宙論に基づいた歴史改変ものになっている。そこに登場するパラレルワールドはディストピアであることが多い。
歴史改変がテーマではない番組でも、歴史改変のコンセプトを使う場合がある。スタートレックでも何度か使っている。『宇宙大作戦』(TOS)の「危険な過去への旅」、『まんが宇宙大作戦』の「タイム・トラベルの驚異」、『新スタートレック』の「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」などがある。映画版第8作の『スタートレック ファーストコンタクト』では歴史改変を防ぐことが主題となっている。また、「イオン嵐の恐怖」(TOS)に出てくる世界は単なるパラレルワールドだったが、その後のスピンオフシリーズ(『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン』、『スタートレック:エンタープライズ』)のエピソードにも平和的な惑星連邦とは全く性質の異なる暴虐的な地球帝国(テラン帝国)が成立している鏡像宇宙という設定で登場し、歴史改変SF的要素が加わっていった。イギリスのテレビ番組『ドクター・フー』にも歴史改変SF的なエピソードがある。ヒロインのローズ・タイラーの父ピート・タイラーが生きて富豪になっている世界がそれである(元の世界ではローズが赤ん坊の頃に死んでいる)。この世界は第2シーズン最終回あたりでも登場している。第4シリーズの11話 Turn Left では、ドクターが殺されている世界が登場する。『ファミリー・ガイ』のあるエピソードでは、過去にタイムトラベルして歴史を変えてしまう話がある。『トワイライト・ゾーン』のエピソード "The Parallel" では、宇宙飛行士が全く違う歴史のパラレルワールドに行く。
『ジパング』(同名の漫画が原作)では、海上自衛隊の最新イージス艦が1942年のミッドウェー海戦の時代にタイムスリップする。結果として第二次世界大戦の情勢を変えてしまい、歴史を変えてしまう。
ロールプレイングゲーム
テーブルトークRPGには歴史改変を扱った作品が多い。特に「ガープス」の第4版ではデフォルト設定に複数の時間線を含んでいる。
コンピュータゲーム
コンピュータゲームにも歴史改変を扱ったものは多い。特にパソコン版ゲームの場合、あらかじめゲームメーカーが用意したシナリオだけでなく、公式ツールやMOD、その他のツールによりユーザー側でシナリオを作成・改変することも可能になっているためこれを用いて歴史改変シナリオが独自に作られることもある。
『コマンド&コンカー レッドアラート』は、アルベルト・アインシュタインが第二次世界大戦を防ぐためにヒトラーの存在を消すという設定である。その結果、ヨシフ・スターリン率いるソビエト連邦の力が強まり、ヨーロッパへ侵攻を開始する。
『Crimson Skies』は、1つの歴史改変の設定を様々なジャンルに展開している例である。1930年代のアメリカ合衆国が、世界恐慌、第一次世界大戦、禁酒法などの影響で敵対する複数の国家に分裂している世界である。国家間の道路や鉄道は破壊されている。戦闘機部隊に護衛された大型硬式飛行船が、ハイジャックや敵国の標的にされている。この世界設定に基づいたボードゲームやパソコンやXbox向けのコンピュータゲーム、小説、コミックなどが発売されている。
『フリーダム・ファイターズ』では、第二次世界大戦中にソビエト連邦が先に原爆を開発した世界を設定している。それによって真っ先にベルリンが攻撃された。そのため、ソ連の発言力が強まり、その後の歴史はソ連主導で展開していく。1953年にはヨーロッパ全土がソ連に吸収された。ゲームの舞台はニューヨークで、アメリカ合衆国に侵攻しようとするソ連と戦う。
『World in Conflict』は、ソビエト連邦が崩壊し始めていた1989年、ワルシャワ条約機構が西側へ侵攻を開始するという設定である。2008年2月にリリースされた『Turning Point: Fall of Liberty』では、それまでとは異なり、ウィンストン・チャーチルが1931年に死亡し、第二次世界大戦に枢軸国が勝利した設定である。War Front: Turning Point も別の設定で、ヒトラーが早めに死亡し、ナチスの指揮系統が効率化されたためにアシカ作戦が成功し、イギリスが占領される。
他にもプレイステーション3用のゲーム『RESISTANCE 人類没落の日』も歴史改変の要素がある(第二次世界大戦が起きなかったという設定)。
日本製のゲームにも歴史改変を扱ったものは多い。システムソフト・アルファー(旧・システムソフト)の『大戦略シリーズ』には近隣諸国が日本への侵攻を開始したという設定のシナリオがほぼ毎回搭載されている。またコーエーの信長の野望シリーズ、三國志シリーズ、太閤立志伝シリーズをはじめとした作品にも歴史改変要素のあるシナリオが存在する。
コミック
コミックや漫画にも歴史改変SFが存在する。Captain Confederacy はアメリカ連合国が独立し、プロパガンダ目的でキャプテン・アメリカのようなスーパーヒーローを作る話である。
アラン・ムーアの1986年のコミックシリーズ『ウォッチメン』はスーパーヒーローのいるもう1つのアメリカが舞台だが、歴史改変の要素はそれだけではなく、ベトナム戦争はアメリカが勝利しているし、リチャード・ニクソンは任期を全うしたという設定になっている。Warren Ellis の2001年の Ministry of Space では、アメリカやソ連に先駆けてイギリスがドイツのロケット技術を獲得した世界の話である。
DCコミックでは、本筋とは異なるシリーズを歴史改変的な扱いにしており、従来は "Imaginary Tales" と呼んでいた。そして1989年、Batman: Gotham by Gaslight から新たなインプリント Elseworld を立ち上げた。マーベルコミックでは同様の形式のものを What If...? シリーズと呼んでいる。このシリーズのコミックは1巻ものが多く、メインシリーズとはつながりがない。
歴史改変SFの境界線
小説の中には歴史改変SFのようにも読めるが、そのように意図して書かれたわけではないものがある。例えば、ロバート・A・ハインラインの「月を売った男」(1949年)である。この小説では、人類初の月到達は1960年代に政府ではなく個人企業が行ったことになっている。最近の読者がこれを読むと、史実と異なるから歴史改変SFだと思うかもしれない。しかし、書かれた当時は20年ほど未来のことを書いていたのである。したがって「月を売った男」は古くなったSFであって、歴史改変SFではない。似たような例として『2001年宇宙の旅』の小説版や『1984年』などがある。どちらも書かれた当時は未来のことを書いたものだが、現在から見れば過去の時点を描いている。
歴史改変SFと古びてしまった未来史の根本的違いは、作者が真の歴史がどうなっているかを知った上で書いているか否かである。後者は、作者が完全に想像して書いている。例えばH・G・ウェルズの "The Shape of Things to Come" (1933年)は、ドイツがヴェルサイユ条約に縛られ、アドルフ・ヒトラーが台頭してきたころに書かれた。その中では、ポーランドとドイツが10年間戦い、明確な決着がつかないとされている。同じ話を現代の作家が書くなら、既にドイツ国防軍がポーランドを迅速に圧倒した事実を知っているので、なぜポーランドがそれほど強いのかを詳しく説明しなければ読者を納得させられないだろう。
また、歴史改変SFは秘史や歴史修正主義とは異なる。これらは、実際の歴史に一般的に知られているものとは異なる解釈や秘密を与えるものである。例えば、様々な事件の背後にイルミナティやフリーメイソンや地球外生命が暗躍していた、という小説は秘史に分類される。中には、歴史改変と秘史を1つにした作品もある。例えば、ロバート・シェクリイの "Dukakis and the Aliens" では、1988年の大統領選でマイケル・デュカキスがジョージ・H・W・ブッシュに勝ち、エリア51にあるUFO基地にいる彼の主人に会いに行くという話である[14]。
歴史改変SFは、失われた歴史といった設定のファンタジーとも異なる。それは例えば、古代に文明が栄えていたが、忘れ去られてしまったというような設定である。例えば、ロバート・ハワードやJ・R・R・トールキンの諸作品がある。
歴史改変SF以外にも、意思決定による分岐を扱う小説は存在する。例えばマージ・ピアシーの『時を飛翔する女』(1976年)がある。精神病院に入れられた主人公の女性は、2種類の未来社会を見ることができる。1つはフェミニズム的な理想社会で、もう1つはファシズムの支配するディストピアである。彼女の脳に施される手術によってどちらの未来が勝つかが決まる。タイムトラベルの要素があり、並行時間の要素があり、妄想的現実を描いているようでもあるが、意思決定による分岐が現在行われるものという点で歴史改変SFとは呼べない。
歴史改変SFと若干似たジャンルとして英語で invasion literature と呼ばれるジャンルがある(直訳すると「侵略文学」)。これは、大衆が不安に感じている近未来の悪い予測に基づいた小説などを指す(ヴィタ・サックヴィル=ウェストはこれを "cautionary tale" と呼んだ)。例えば、1870年代ごろから、イギリスではドイツやフランスが侵略してくるという話が多数書かれた。世界恐慌の際には、シンクレア・ルイスがファシストがアメリカ合衆国を乗っ取るという It Can't Happen Here(1935年)を書いた。第二次世界大戦初期に Sackville-West が書いた Grand Canyon(1942年)は、ドイツが国防の備えのないアメリカ本土を急襲する話である。これらの小説はごく近い未来を描いているため、古くなった未来史と同じように、後世の人が読むと歴史改変SFのように読める。
戦後の日本では、第二次世界大戦を扱うことに特化した架空戦記というサブジャンルが独自の発展を遂げた。特にSF志向ではない(SF的小道具やSF的プロットが使用されない)作品も多い。